中古REIT市場の実情──個人投資家が見落としがちな流通リスク

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近年、J-REIT(不動産投資信託)は、日本の個人投資家にとって「不動産投資を手軽に始められる手段」として注目を集めてきました。証券口座があれば1口から売買でき、分配金も比較的安定しているため、株式や債券の代替投資先として人気があります。

しかし、多くの投資家が見落としているのが「中古REIT市場」、つまりIPO後に市場で流通している既発行REITを売買する際のリスクです。新規上場時のパンフレットや目論見書では見えない「流通市場ならではの落とし穴」が存在します。

本記事では、個人投資家が中古REITを売買する際に直面しがちな流通リスクと、その背景、そして回避のための視点を詳しく解説します。

1. 「中古REIT市場」とは何か

REITは、証券取引所に上場しているため、株式と同様に二次市場で売買可能です。

新規上場(IPO)時に購入するのではなく、既に市場で取引されているREITを売買する市場が、いわゆる「中古REIT市場」です。

多くの個人投資家がREITを購入する場合、この二次市場を利用しています。

しかし、株式市場と異なり、REITには独自の価格変動要因や流動性リスクがあり、その性質を理解せずに売買すると、思わぬ損失を抱えることになりかねません。

2. 中古REIT特有の「流通リスク」とは

流通リスクとは、自分が売りたいときに適正な価格で売れない可能性のことを指します。中古REIT市場での流通リスクは、主に以下の3つの要因から発生します。

(1) 流動性の低さ

大型の人気REIT(例:日本ビルファンド投資法人、ジャパンリアルエステイト投資法人)などは日々の出来高が多く、売買もスムーズです。しかし、地方不動産特化型や中規模REITでは、出来高が極端に少ないことがあります。

  • 出来高が少ない → 売り注文を出しても約定しにくい
  • 買い手が少ない → 売却価格が大きく下落しやすい

特に相場急落時には、売却希望者が一気に増えるため、板が薄いREITでは一気に価格が数%〜10%以上下落することもあります。

(2) 需給の偏り

REITは、機関投資家や不動産会社が大口で保有している場合が多く、その売買動向が価格に大きな影響を与えます。

例えば、1つのREITに対して機関投資家が一斉に売りを出すと、需給が一気に崩れ、短期間で大幅安になるケースがあります。

(3) 分配金利回りだけに目を奪われるリスク

中古REIT市場では「利回り〇%」が広告的に強調されがちです。

しかし、利回りが高いからといって安全とは限りません。利回りの高さは価格下落の裏返しである場合も多く、「値下がりリスク」を織り込まずに買うと痛い目に遭います。

3. 中古REITの価格変動要因

株式とは違い、REITの価格は以下の要因で変動します。

  1. 不動産市況の変動
    空室率の悪化や賃料の下落は、分配金減少に直結します。
  2. 金利の動向
    REITは借入によるレバレッジを活用して運用されます。金利上昇は借入コスト増につながり、分配金減少・価格下落を招きます。
  3. 新規物件取得や売却の成否
    不動産の取得価格が高すぎたり、売却が不利な条件で行われると、運用成績に影響します。
  4. 大型の増資発表
    増資によって既存口数の価値が希薄化するため、一時的に価格が下落する傾向があります。

4. 個人投資家がやりがちな失敗パターン

中古REIT市場における典型的な失敗例を3つ紹介します。

失敗例① 高利回りに飛びつく

「年利6%!」「利回り7%!」という数字に惹かれて購入したものの、翌期に分配金が大幅減額となり、さらに価格が下落。利回りは一時的に高く見えても、将来的に維持されるとは限りません。

失敗例② 出口戦略を考えずに購入

「とりあえず長期保有で分配金をもらえばいい」と思っていたが、急に資金が必要になり売ろうとすると、板が薄く、想定より大幅に安値で売却することになった。

失敗例③ 市場全体の調整を軽視

株式市場と同様に、REIT市場にも全体的なサイクルがあります。世界的な金利上昇局面や不動産市況の悪化期には、優良REITも含めて全体的に下落するため、特定銘柄の分析だけでは不十分です。

5. 流通リスクを軽減するための投資戦略

流通リスクを完全に排除することはできませんが、以下の対策で影響を抑えることが可能です。

  1. 出来高を必ずチェック
    購入前に日々の出来高を確認し、少なくとも数千口以上の出来高がある銘柄を選ぶ。
  2. ポートフォリオ分散
    1〜2銘柄に集中せず、複数のセクター(オフィス、物流、住宅、商業施設など)や規模の異なるREITを組み合わせる。
  3. 長期保有前提の資金設計
    短期的な現金化が必要になる可能性がある資金は、中古REITに投資しない。
  4. 金利・不動産市況の動向をモニタリング
    特に日銀の金融政策や米国の金利動向はREIT価格に影響を与えるため、定期的にチェックする。

6. まとめ

中古REIT市場は、一見すると安定的な分配金を得られる投資先に見えますが、実際には流動性の低さ・需給の偏り・価格変動要因の多さといったリスクが存在します。

特に、個人投資家が見落としがちなのが「流通リスク」。これは普段は目立たないものの、市場が荒れたときに最も大きなダメージを与えるリスクです。

REIT投資を成功させるためには、利回りだけでなく出来高・市場規模・金利動向といった複合的な要因を踏まえて判断することが不可欠です。

「安いから買う」ではなく、「売るときにも困らない銘柄か」という視点を持つことが、長期的な資産防衛につながります。

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